EBPM(Evidence Based Policy Making)という言葉を最近よく聞きます。エビデンス(証拠)に基づき政策立案すべし、ということです。証拠に基づかない政策立案って何?というツッコミはさておき、医療政策においてもEBPMの重要性が指摘されています。
その土台となるのは何と言ってもデータですが、その整備が近年目覚ましく進んでいます。例えば、全国民の医療の診療報酬の明細データ(レセプトデータ)を格納するNDB(ナショナル・データ・ベース)の運用が2013年から始まりました。
一方で、有用なエビデンスを示すために必須のデータが、実はなかなか得られないという問題もあります。そこで、エビデンスに基づく医療政策立案の進展に向けて、今後のデータ整備の課題を3点あげておきたいと思います。
所得がわからない
第一は、医療サービスの利用者の所得が、おおまかなレベルですらわからないことです。わが国においても、近年所得の格差の拡大が懸念されています。過去の研究から、所得の低い人々に対しては、医療費の自己負担の上昇が、健康に悪影響を及ぼす可能性が指摘されています。*1 医療データを所得データと紐づけで分析することが重要です。
医療の「質」のデータが不足している
第二は、医療の「質」に関するデータが不足していることです。諸外国では、医療機関別の手術後の生存率等の情報をウェブで簡単に検索できますが、日本では質の情報の作成や公表には消極的です。結果として、政策の効果が医療の質に及ぼす影響を分析することが難しい状況です。全ての病院や介護施設等を対象に、統一的な質指標を作成し医療の質の情報を公表することが必要です。
他のデータとリンクできない
第三は、現在整備中の医療・介護のデータベースでさえ、他のデータとリンクして使えません。外部のデータだけでなく、政府が保有する医療施設や医師のデータとさえリンクできません。
その理由の一つは個人情報の保護とされます。現状、データを不適切に利用した場合のペナルティが比較的弱いため、データ提供の度合いを制限せざるを得ないのかもしれません。しかし、様々なデータとのリンクなしで政策立案に有用なエビデンスを示すことには大きな限界があると感じています。不適切利用に対する罰則強化等の施策とセットで、より広く柔軟にデータ利用を認める方向に舵を切るべきでしょう。
より詳しくはこちらからどうぞ
https://www.ihep.jp/wp-content/uploads/2020/04/Vol.31_No.2_2019_1.pdf
*1:代表的な研究に米国で1970年代に行われたRAND Health Insurance Experimentがあります。